メニュー
カテゴリー
Before 旅のはじまり
On the way 旅の途中
After 旅の余韻
Practical 旅の知恵
Aside 日常のはなし
アーカイブ

とある日のこと。
近所に住む友人、アミから電話がかかってきた。
「ねー!あさかー!
聞いてよーーー!!!」
この友人、1年くらい前から「母を海外旅行に連れてくんだ〜」って話してた。
その計画をこの日、ついに母・ミチコと話すって聞いていた。
「前にさ、“なんでも私に聞いてくるのはやめて、自分でも調べてもらわないと無理だよ”って言ったの。
そしたらいろいろ調べたみたいなんだよ。
で、今日“どこ行きたい?”って聞いたらさ、
“台湾かな…”って言うの。
行きたいところじゃなくて、
“自分でも行けそうなところ”を言うんだよー。
どう思う?!」
『おぉお…それは、ひよってんな(笑)』
「だよねーーー!
ちょっとこれからミチコと、あさかんち行くわ!
喝入れてやってくれよーーー!!!」
ということで、
一度だけ会ったことのある友人の母・ミチコと一緒に、
うちに来ることになった。
「あさかー!来たぞーーー!」
毎度、元気に現れるアミに続いて、
ニコニコのミチコ。
「久しぶりー。おじゃまします♡」
とても友人の母を迎え入れるような部屋じゃない我が家。
ソファの上には、畳まれていない洗濯物。
あせあせしている私の気持ちなんて、なんのその。
「お。ミチコ、洗濯物畳むの、めちゃくちゃ上手いんだよ!」
と言われ、話しながら私の洗濯物を畳んでくれるミチコ。
情けなさを受け入れ、穏やかな私の心。
……謎の光景だったなぁ。
『それで、ミチコはどうして台湾にしたの?
本当に、行きたい国が台湾なの??』
「自分でも調べろって言われて、
いろいろ調べてたら、怖いこととか出てくるじゃない?
そしたら、台湾なら言葉も漢字がわかるし、行けるかなって思って……」
確かに、調べているとその国での注意事項とかも出てくる。
気をつけて行くのはもちろんなんだけど、
その“注意”に意識を持っていかれすぎると、怖くて動けなくなるんだよな。
ミチコは海外旅行初心者。
ましてや今回は個人旅行。
そりゃあ、怖くなっちゃうよな。
『怖いの抜きにして、ミチコが本当に行きたいところって、どこなの?』
「えー……どこなんだろう……」
ミチコの雰囲気に合いそうな国をいくつか挙げてみた。
その中で、
「ベルギーとかオランダが気になる!」
と声をあげたミチコ。
『おー!いいねー!』
と、その直後。
「ねぇ、私ってさ、前世なにかな?」
と突然のミチコのひとこと。
思わず顔を見て、
『ユダヤ人じゃない?』
と、口から出ていた。
アミもそれを聞いて、
「確かに!わかる!ユダヤ人っぽいかも!」
と2人で盛り上がった瞬間、
ミチコの目から涙があふれた。
「なんか、涙出てきちゃったーーー」
特別な能力があるわけじゃない。
でもどうやら、“ユダヤ人”という言葉が、ミチコの魂に響いたようだった。
そこからは早かった。
『ユダヤで言うなら、
さっきのオランダには“アンネの日記”のアンネ・フランクの生家があって、見学もできるよ。
ポーランドにはアウシュヴィッツ収容所があるし、興味があれば他の収容所も見られるよ。』
「行きたい!」
『おー!行きたいところ出てきたじゃん!
そうだなぁ……その辺まわるなら、フィンランドでオーロラとかも面白そうだよね。』
「「オーロラ!!!」」
思わず声が揃う母娘。
なんだか笑いが止まらなかった。
ミチコの目にはまだ涙の名残があって、
アミはそれを見ながら、嬉しそうにうんうん頷いていた。
私はというと、
“誰かの旅の背中を押すって、やっぱりいいな”なんて思いながら、
まさか自分までその旅に巻き込まれるなんて、
このときはまだ、夢にも思っていなかった。